理学療法士の文献整理棚

リハビリ関係のアウトプット

小脳病変の機能予後〜海外の報告〜

小脳病変としましたが、以下は小脳梗塞における予後の検討報告を紹介します

 

なお、以下の内容で気になることは原著を確認するようにお願いします

 

 

●小脳梗塞患者と失調スケールの予後について

Prognostic Importance of Lesion Location on Functional Outcome in Patients with Cerebellar Ischemic Stroke:a Prospective Pilot Study

Cerebellum 2017

 

対象は14名の小脳梗塞患者
損傷部位に対して第7病日、第90病日でのICARS(International Cooperative Ataxia Rating Scale)のスコアを検討した
その結果、第7病日のICARSとV, VI, VIIA Crus I, VIIA Crus II, VIIB,VIIIA,VIIIBの損傷が関連していた

また第90病日ではⅥ, VIIA Crus I, VIIA Crus II, VIIB, VIIIA, and VIIIBの損傷が関連していた

 

 

●小脳梗塞患者の上肢の運動機能の予後について

Recovery of Upper Limb Function After Cerebellar Stroke Lesion Symptom Mapping and Arm Kinematics

stroke 2010

 

対象は16名の急性期小脳梗塞患者(SCA9名、PICA7名)と11名の健常者
目標志向型と自由型の指のポインティング課題を2週と3ヶ月で測定する

MRIは急性期と3ヶ月でマッピングした

脳梗塞vs健常者の運動パフォーマンスを比較した
結果は急性期では70%の患者が手の運動速度と加速度が低下している
小脳葉の4、5が病変であり、小脳核も影響している
上肢の運動失調は2週ほどで改善し、2週と3ヶ月では差がない

 

 

●小脳梗塞患者と下肢機能、歩行機能の予後について

 

Functional recovery and rehabilitation of posture impairment and gait ataxia in patients with acute cerebellar stroke.

Gait&Posture 2013

 

対象は23名の小脳梗塞患者

損傷箇所と運動機能の比較、さらにトレッドミルトレーニングの効果を検証した

トレッドミルトレーニングに関しては急性期に2週間実施した群とコントロール群で比較した

結果はトレッドミルトレーニングは有意な効果を示さなかった

3ヶ月経過すると損傷血管の支配領域による違いは認めなかった

3ヶ月後も歩行や下肢の失調は、小脳の小葉のⅣからⅥの損傷例にて残存した

 

 

数個の論文を見た結果、総じて小脳性の運動失調は予後が良いと言えそうです

血管支配による違いの有無は一定の見解が得られていませんが、小脳小葉や小脳核は機能予後に一定の関係がありそうです

 

そのため小脳の解剖学が重要となってきます

 

次回は小脳の解剖についてまとめていきます

小脳病変の機能予後〜国内の報告〜

 

脳卒中の中でも小脳病変は予後が良いとされています

 

急性期では嘔気が強く離床できない症例が亜急性期になると嘔気が減り、グンとADLが上がるなんて症例を経験します

 

今回から数回にわたり小脳病変の予後について考えていきたいと思います

 

初回は国内における小脳病変の予後に関する報告を確認していきます

 

 国内の報告は少なく20年以上も前のものになります

 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jstroke1979/15/2/15_2_104/_pdf

 

 Jstageよりフリーアクセスですので、是非原著を読んで頂ければ幸いです。

 

 

対象は小脳梗塞または小脳脚に病変を含む脳幹梗塞が認められた47例です

 

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上記原著より引用

内訳は上図の通りです

 

四肢の運動失調は32例(78%)にみられ、9例が1年以上持続した予後不良例でした

特に予後不良例は上小脳動脈(SCA)領域の病変に認められ、歯状核と上小脳脚といった小脳から大脳への遠心路に関わる領域が関係していると述べています

 

 

この報告から小脳病変でも部位によって症状だけでなく予後にも差異があることが示唆されます

 

なぜこのような差異がでるのか、これには小脳の機能解剖が手がかりになるかもしれません

 

次回は小脳病変の予後について海外の報告を確認していきます

また次回以降に上述した小脳の機能解剖についてもまとめていければと思います


 

 

半側空間無視のリハビリテーション④

前回は注意のネットワークの知見からUSNを捉えていき、腹側注意ネットワークの重要性について書きました

 

 

しかしそのメカニズムを理解すると、今まで私たちが行ってきたアプローチは果たして正しかったのか?という疑問が生じます

 

 

左を向いてください

もっと左です

左にいる私の顔が見えますか?

右から左に輪を移動させてください

 

などなど

 

これら全て能動的注意を利用しています

 

能動的注意ばかり働くと、机上検査はカットオフ以上なのに日常生活では無視症状が出るといった解離を認めることがあります

 

逆に能動的注意が障害され、受動的注意が残存している場合は、意図的に注意を集中できないわけですので、注意散漫な状態です

 

ただし、能動的注意と受動的注意はネットワークを形成していますのでどちらかが一方的に機能低下しているという考え方は、誤りかなと思います

 

そのため個人的にですが、

能動的注意=集中

受動的注意=気づき

のように枠組み的に捉えると臨床的にも評価しやすい印象です

 

 

関節や筋、歩行となるとかなりミクロな解釈をするのに対して

USN→左向けない→左を向かせる練習

といった短絡的な解釈となりやすいです

 

能動的注意や受動的注意を知っているだけでも少し掘り下げた治療展開ができるのではないでしょうか?

 

 

USNに詳しい方からするとまだまだ考え方が浅いと思われるかと思いますが、まずは浅くても1段階掘り下げることに注力すべきです

 

0を1にするのが一番大変なはずです

 

そこを知っている側の人が、身近な知らない側の人に、易しく啓蒙していくことが大切です

 

半側空間無視のリハビリテーション ③

前回までは古典的な半側空間無視の病態理解に、半球間不均衡説と方向性注意障害説があることを説明しました

 

 

今回は2つの注意システムとUSNの関係について考えていきます

 


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 corbettaら,2008より引用


この写真の左側は意識的にパソコンの画面に集中した状態です

このような注意を能動的注意やトップダウン注意などと呼びます

人物の脳部分は活動量に応じた色分けがなされており、オレンジ色の部分、つまり脳の上部(背側)が働いています

そのためこの能動的注意に関わる神経ネットワークを背側注意ネットワークと呼んでいます



対して右側の写真では、奥の人がこちらを向いており、それに対してこちらもパソコン→奥の人に注意を切り替えた状態です

このような、たくさんの情報の中から際立った感覚情報に注意を再定位する働きを受動的注意やボトムアップ注意と呼んでいます

人物の脳部分は先程の背側注意ネットワークに加えて脳の下部(腹側)が働いています

そのため受動的注意に関わる神経ネットワークを腹側注意ネットワークと呼んでいます


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森岡,2017 PTジャーナル10月号の特集より引用


この図は先程の背側/腹側注意ネットワークの関係図になっています


白抜き四角が背側注意ネットワークですが、両側半球に存在し、半球間抑制されています

グレーの四角が腹側注意ネットワークですが、こちらは右半球に側性化しています


そのため右半球半球損傷にて腹側注意ネットワークがダメージを負うと、腹側注意ネットワークの機能低下します

さらに神経連絡がある同側の背側注意ネットワークの機能低下が生じ、半球間抑制の観点から左半球の背側注意ネットワークが過度に働き、右側を注視します



このメカニズムは半球間不均衡説と方向性注意障害説のどちらの要素も満たした考え方です


そのためUSNの病巣として腹側注意ネットワークに関わる部位が注目されています



次回はこのメカニズムを踏まえて今まで私たちが行ってきた治療について考えていきたいと思います


半側空間無視のリハビリテーション②

前回は注意機能がネットワークシステムにより機能し、そのネットワークのどこかで損傷されるとUSNが生じうることを説明しました

 

また皮質間のネットワークだけでなく、半球間抑制の視点から注意機能の均衡が崩れることでUSNが生じることも説明しました

 

 

今回は注意機能における右半球の役割の特異性について考えます


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 (高次脳機能障害に対する理学療法より引用)


この図は方向性注意障害説を説明する図です


中央、丸の中の左半球からの注意探索焦点は赤矢印で示され、焦点分布は右側に偏っています


また各矢印の幅は探索の幅を示しており、右側が長く、より右側へ探索していくことを示しています



次に右半球からの注意探索焦点は黒矢印で示され、焦点は両側に満遍なく分布されています


黒矢印は探索幅の左右差も少ないです



この図から右半球が損傷し、黒矢印がなくなると考えると探索焦点が右に偏倚、探索幅も右に偏る、というUSNの病態を示します


前回の半球間不均衡説と合わせて古典的なUSNの理論に方向性注意障害説があります



次回は古典的な2つの説に矛盾せず、最近の知見である注意システムを応用した新説を紹介します



なお私は、この説を聞いて衝撃を受け、USNに深く興味を持ちました


 

神経理学療法学会サテライトカンファレンスに参加して

1/27に神奈川県立大学で行われたサテライトカンファレンスに参加して来ました

 

都合で午前中の基調講演しか参加できませんでしたが、非常に興味深い講演で満足でした

 

講師は健康科学大学村松先生でした

 

テーマは皮質脊髄路機能不全によるバランス低下〜糖尿病のメカニズムから紐解く〜でした 

 

日頃の臨床から糖尿病の方って末梢神経損傷だけでは説明できないバランスの悪さを感じていました

 

外乱への反応が悪い、でもMMTでは比較的筋力が維持されている

 

なんてことが多い印象でした

 

なぜ感覚神経優位に損傷するのか

脳血管関門説

本当に中枢神経はダメージを負わないのか?

簡単な筋力検査ではわからない特徴的な運動機能の変化

 

最終的には村松先生の研究グループの研究内容にお話が進み、脳血管関門説の根本を覆す可能性がある世界初の発見が紹介されていました

 

 

http://www.kenkoudai.ac.jp/modules/information/index.php?page=article&storyid=426

 

脳血管関門により損傷しないとされていた皮質脊髄路の損傷される

 

本会のテーマであるバランスという点から錐体外路系はどうなのかというところに関しては現在研究中で発信が待たれるところです

 

そのメカニズムを踏まえて糖尿病の理学療法にも古典的な有酸素運動レジスタンストレーニングだけでなく、中枢神経系の可塑性を利用した理学療法が応用されるのではないかといったところで講演は締められました

 

内容自体も私にとって知らないことばかり、記憶の限りでは成書にない内容でありながら、見やすいスライド、飽きさせないプレゼン、ブレイクポイントも絶妙、90分間集中を切ることなく聞くことができました

 

半側空間無視のリハビリテーション①

 

脳卒中後の高次脳機能障害の1つである半側空間無視(unilateral spatial neglet;USN)について数回にわたり病態解釈に迫っていきたいと思います

 

2017年10月号のPTジャーナルでUSNの特集が組まれました

 

 http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=37500

 

この特集は、今までのUSN関連の書籍の中で最もコンパクト、かつ深い内容であり、とてもオススメです

 

 

私は脳卒中の中でも高次脳機能障害、とりわけUSNに関して興味があり、1年目の頃から自己学習を続けてきました

 

 

症状の原因を評価・考察し、治療するのが理学療法の基本です

例えば関節可動域制限や筋力低下でも何故そのような状態となるのか、常になぜ?どうして?と突き詰めていくことで治療方法が選択されるはずです

 

しかしながらUSNの場合はどうでしょうか

 

左を無視する→左に注意を向ける

 

という短絡的な評価-治療になっていないでしょうか?

 

そこに疑問を感じたのが、USNを勉強し始めたきっかけです

 

脳と身体は密接に関係しており、身体に触れて治療する理学療法が、筋や関節といった末梢組織のみを対象にしてはいけない、むしろ身体を動かすことから間接的に脳の障害を改善していく必要があると思います

すなわち理学療法脳損傷治療の1つの柱であるとも思います

 

 

ではUSN症例に対してどのような理学療法を行うべきか、考えていきます

 

 

なぜUSNが起きるのか?

 

 

 

治療を行う前にその原因を知る必要があります

 

USNは古くから視空間認知に関わる頭頂葉病変により発生すると言われています

私が学生の時は角回・縁上回の損傷が原因で生じると習いました

 

しかし現在では、頭頂葉病変だけでなく、前頭葉、側頭葉、視床、さらには神経線維である上縦束まで様々な脳部位の損傷によって生じるとされています

 

脳の局所障害 → 脳のネットワーク障害

へと認知が変わり、注意に関わる神経ネットワークの解明からUSNの病態が明らかにされてきました

 

 

 

注意のネットワークについて

 

 

注意機能はネットワークシステムによって働いています 

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高次脳機能障害理学療法より引用

 

注意機能はさまざまの脳の部位により保たれています

 

図のようにベースの覚醒機能に網様体賦活系から視床といった大脳基底核や脳幹

身体感覚と視空間認知を統合し、表象地図形成に関わる後部頭頂葉

発動性や情動に関わる帯状回

眼球運動を制御する前頭眼野

 

これらの部位が連動して注意を向ける、切り替えるといった注意機能が働いています

 

 

半球間抑制について

 

 

半球間抑制とは、以前の脳卒中ステージ理論でも書きましたが、大脳半球は互いに抑制しあっているという考え方です

片側の大脳半球が損傷されて機能低下すると対側大脳への抑制が外れ、脱抑制となり損傷側の大脳の働きを弱めてしまうと考えられています

 

注意機能においても同様のことが言われています

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高次脳機能障害理学療法より引用(kinsbourne,1977)

 

上図でいうと一側半球に損傷が生じたため、対側半球の脱抑制が生じ、注意が過多となる

加えて対側半球から損傷側への抑制が残っている

 

といった状態になります

 

これにより一側を無視するという病態が生じたと考えられています

 

このように先程の注意のネットワークのような皮質間だけでなく、半球間での関係性からUSNが生じると考えられています

 

半球間抑制または半球間不均衡と呼ばれています

 

 

次回は違った視点でのUSNの原因の報告を紹介しながら注意機能について考えを深めていきたいと思います