AVERTⅢから考えなければいけないこと
2015年4月にLancet誌に脳卒中後の早期離床に関する知見が載せられました
(オープンアクセスです。図はすべて原著より引用)
Efficacy and safety of very early mobilisation within 24 h of stroke onset (AVERT): a randomised controlled trial
Lancet 2015; 386: 46–55
インターネットのニュースなどにも取り上げられ、見聞きしたセラピストも多いのではないかと思います
症例数約2000例の大規模RCTであり、加速していた脳卒中後の早期離床の流れに警鐘を鳴らすnegative outcomeだったことから注目度を高めました
今回はAVERT phaseⅢ 2015の全容について考えていきたいと思います
●研究背景
先行研究では脳卒中後早期に座位、立位、歩行といった離床(out of bed)を行うことが、SCUで効果的とされています
また多くの国の脳卒中ガイドラインでも推奨されています
しかし脳卒中後の早期離床には強いエビデンスが不足しているのが現状でした
脳卒中後の早期離床の利点として臥位で管理されることによる弊害が挙げられています
①筋骨格系、呼吸循環器系のnegativeな要因
②不活動性が増加
③脳の可塑性や修復を阻害
これらを改善するべく早期離床は進められてきました
しかし早期離床は、ペナンブラ領域の回復に重要な大脳動脈の血流低下や活動による血圧上昇による転帰の不良化を引き起こすとして、早期離床を懸念する声もありました
そのため早期離床がどの程度効果的なのか、大規模な研究が必要であり、それがAVERTⅢでした
●AVERTとは
A Very Early Rehabilitation Trial;AVERT
phaseⅢの前に2009年にphaseⅡとして71例を対象にした小規模RCTが行われました
脳卒中発症後48時間以内に離床した群が、通常ケア群に比して、3ヶ月後の機能的outcomeが良好でした
すなわち神経学的合併症を増やさず、不動に関する合併症を減らし、歩行機能を回復させたとのこと
その結果から満を辞して大規模RCTを開始したのです
●対象と研究デザイン
対象は取り込み基準を満たした脳卒中患者2104例です
1054例の早期離床群と1050例の通常ケア群に群分けし、介入が開始となりました
●介入内容
早期離床群は24時間以内に離床を開始し、座位、立位、歩行を中心としたセッションを通常群より最低3回分多く介入することを条件としました
介入は理学療法士または看護師によって行われました
介入期間は発症後14日まで、またはSCUを退出するまでとしていました
●介入群とcontrol群の比較
outcomeは
発症後3ヶ月でのmodified Rankin scale
(0-2;転帰良好、3-6;転帰不良)
介助なしで50m歩行可能となるまでの期間と人数
死亡数や重篤な合併症の数
としました
●結果
ベースラインは両群で有意差はありませんでした
離床開始時間は、発症から早期離床群で18.5時間、通常ケア群で22.4時間でした
1日の離床介入頻度は、早期離床群で6.5回、通常ケア群で3回でした
1日の離床介入時間は、早期離床群で31分、通常ケア群で10分でした
発症後3ヶ月のmRSは通常ケア群が早期離床群に比して良好な結果を示しました
サブ解析にて、特に脳出血例や重症脳梗塞例(NIHSS>16)で通常ケア群が早期離床群に比して良好な結果を示しました
早期離床群と通常ケア群では介助なし50m歩行機能の獲得および獲得期間に有意差はありませんでした
また両群でほとんどの患者に重篤な有害事象の発生はなく、かつ有害事象の発生率に有意差はありませんでした
●個人的な意見
この研究には、いくつか疑問があります
・通常ケア群と早期離床群の離床開始時間の差が4時間しかない
・具体的な介入内容が不明
・良好な転帰、不良な転帰のoutcomeをmRSで決めている
・BIやFIMといったADL指標がない
長期間、多施設にまたがった大規模研究だったためか、outcomeがザックリです
では妥当ではない研究かというと、そうではありません
世界初の大規模研究です
このデータには今後の脳卒中リハビリテーションへのメッセージが隠されているように思います
では早期離床は害なのでしょうか?
次回はAVERTⅢを受けて飛び交った意見をまとめていきます