半側空間無視のリハビリテーション①
脳卒中後の高次脳機能障害の1つである半側空間無視(unilateral spatial neglet;USN)について数回にわたり病態解釈に迫っていきたいと思います
2017年10月号のPTジャーナルでUSNの特集が組まれました
この特集は、今までのUSN関連の書籍の中で最もコンパクト、かつ深い内容であり、とてもオススメです
私は脳卒中の中でも高次脳機能障害、とりわけUSNに関して興味があり、1年目の頃から自己学習を続けてきました
症状の原因を評価・考察し、治療するのが理学療法の基本です
例えば関節可動域制限や筋力低下でも何故そのような状態となるのか、常になぜ?どうして?と突き詰めていくことで治療方法が選択されるはずです
しかしながらUSNの場合はどうでしょうか
左を無視する→左に注意を向ける
という短絡的な評価-治療になっていないでしょうか?
そこに疑問を感じたのが、USNを勉強し始めたきっかけです
脳と身体は密接に関係しており、身体に触れて治療する理学療法が、筋や関節といった末梢組織のみを対象にしてはいけない、むしろ身体を動かすことから間接的に脳の障害を改善していく必要があると思います
ではUSN症例に対してどのような理学療法を行うべきか、考えていきます
なぜUSNが起きるのか?
治療を行う前にその原因を知る必要があります
USNは古くから視空間認知に関わる頭頂葉病変により発生すると言われています
私が学生の時は角回・縁上回の損傷が原因で生じると習いました
しかし現在では、頭頂葉病変だけでなく、前頭葉、側頭葉、視床、さらには神経線維である上縦束まで様々な脳部位の損傷によって生じるとされています
脳の局所障害 → 脳のネットワーク障害
へと認知が変わり、注意に関わる神経ネットワークの解明からUSNの病態が明らかにされてきました
注意のネットワークについて
注意機能はネットワークシステムによって働いています
注意機能はさまざまの脳の部位により保たれています
図のようにベースの覚醒機能に網様体賦活系から視床といった大脳基底核や脳幹
身体感覚と視空間認知を統合し、表象地図形成に関わる後部頭頂葉
発動性や情動に関わる帯状回
眼球運動を制御する前頭眼野
これらの部位が連動して注意を向ける、切り替えるといった注意機能が働いています
半球間抑制について
半球間抑制とは、以前の脳卒中ステージ理論でも書きましたが、大脳半球は互いに抑制しあっているという考え方です
片側の大脳半球が損傷されて機能低下すると対側大脳への抑制が外れ、脱抑制となり損傷側の大脳の働きを弱めてしまうと考えられています
注意機能においても同様のことが言われています
上図でいうと一側半球に損傷が生じたため、対側半球の脱抑制が生じ、注意が過多となる
加えて対側半球から損傷側への抑制が残っている
といった状態になります
これにより一側を無視するという病態が生じたと考えられています
このように先程の注意のネットワークのような皮質間だけでなく、半球間での関係性からUSNが生じると考えられています
半球間抑制または半球間不均衡と呼ばれています
次回は違った視点でのUSNの原因の報告を紹介しながら注意機能について考えを深めていきたいと思います