理学療法士の文献整理棚

リハビリ関係のアウトプット

脳卒中後の痙縮について

今回は痙縮です

 

 

1.痙縮について

1-1.痙縮とは

1-2.ステージ理論と痙縮の関連

1-3.痙縮の責任病巣

1-4.痙縮のメカニズムから理学療法への応用

 

 

1.痙縮について

 

1-1.痙縮とは

 

痙縮とは、上位運動ニューロンの障害により運動速度依存性の伸張反射の亢進を呈し、腱反射の亢進を伴う運動障害とされています

 

 

1)原寛美,吉尾雅春;脳卒中理学療法理論と技術,改訂第2版.運動機能検査,p211-212,2013.

 

痙縮の病態生理には

・筋紡錘の感受性増大によるα運動ニューロンの過剰な興奮性

・Ia線維のシナプス前抑制の減少

・相反抑制の低下

などの上位ニューロンの要素が複雑に関与しています

 

1-2.ステージ理論と痙縮の関連

 

以前の記事で脳卒中後の運動麻痺回復におけるステージ理論について紹介しました 

kaxmo.hatenablog.com

 

その中で1st stageでは残存した皮質脊髄路の回復、2nd stageでは皮質間ネットワークの構築と時期により異なる回復モデルが示されました

 

2nd stageでは健側の運動関連領域の興奮性が高まり、徐々に減少していくとされていますが、なぜこのような現象が起こるのでしょうか

それには皮質脊髄路のもう1つのルートである"延髄で交叉せず同側に下降する神経線維すなわち前皮質脊髄路(約15%)"が関与しているとされています

この15%の前皮質脊髄路が、運動前野の過剰興奮により顕在化(いわゆるアンマスキング)するとしている

 

君浦隆ノ介;脳卒中後痙縮のボツリヌス治療と理学療法脳卒中理学療法理論と技術,改訂第2版.運動機能検査,p458–470,2013.

 

*マスクされていた(覆い隠されていた)経路が顕在化→アンマスキング

 

運動麻痺回復のために今まで隠されていた神経路を顕在化したものの、かえってそれが半球間抑制を強め、損傷側の皮質脊髄路の回復を阻害してしまうのです

 

*半球間抑制とは、大脳半球は互いに抑制しあっている関係のこと

一側が損傷してしまうと非損傷側の大脳半球から損傷側への大脳半球への抑制性の入力が強まり、結果的に損傷側の大脳半球の働きを弱め、半球間での活動性・興奮性に偏りが出てしまう

 

1-3.痙縮の責任病巣

 

先行研究から痙縮の責任病巣と思われる部位が報告されています

 

動物実験において、一次運動野、延髄錐体路、外側皮質脊髄路をそれぞれ単独損傷しても痙縮は生じなかったが、運動前野や補足運動野の損傷が加わると痙縮が生じるとされています

 

またボトックス投与後4週間後に健側の一次運動野、両側の前運動皮質、補足運動野の活動低下がみられたとしています

ヒトの上肢での大脳皮質における痙縮の責任病巣は運動前野、補足運動野、健側の一次運動野の過剰興奮が半球間抑制の異常を起こすことにあると考えられます

 

1-4.痙縮のメカニズムから理学療法への応用

 

運動前野は小脳と連絡し、フィードバック、フィードフォワード機構や視覚優位の運動制御に関与します

補足運動野は大脳基底核と連絡し、姿勢制御や筋緊張の調整を行い、動作開始前の準備いわゆる構えの姿勢を作るとされています

 

痙縮の一因を運動前野、補足運動野の過剰興奮とするならば

・フィードバック、フィードフォワード機構が破綻した状態のまま動作を行うことが、運動前野の過剰興奮につながる

・視覚優位の運動制御が過度な場合、運動前野の過剰努力につながる

・姿勢や筋緊張の調整が不十分の状態で動作をすることは、補足運動野の過剰興奮につながる

と考えられます

 

一言でまとめるならば

"動作に対して予測、準備を作ることが重要であり、それは視覚のみに頼り過ぎるのも良くない"

でしょうか

 

急性期から回復期ににかけてこれらを複合的に考察していくことで痙縮予防の一助となると考えます