脳卒中リハビリテーションの回復戦略
今では一般的となりましたが、内科疾患の患者さん、外科手術後の患者さんに関わらず急性期病院では早期離床、早期リハビリテーションの重要性が様々なところでいわれています
中でも脳卒中後のリハビリテーションの早期化は進んでおり、発症から48時間以内の介入が一般的となっています
しかし、脳卒中後の早期離床の有用性や予後変化を調べる大規模な無作為化試験では早期離床にnegativeな結果が出たと話題になりました
リハビリテーションの早期化の流れ警鐘をならす報告ですが、賛否が分かれているようです
そこで今回は脳卒中リハビリテーションにおいても早期離床、リハビリテーションの早期化について複数回にわたり考察していきたいと思います
1.脳卒中後のリハビリテーションの枠組み
脳卒中の早期リハビリテーションを知る上で重要となる知見を紹介していきます。
1)原寛美編,medical rehabilitation.No161,脳卒中超早期リハビリテーション戦略.2013,9.
1-1.critical time windowの理論
動物の虚血モデルでは発症から1ヶ月後に遅延介入した例において患側大脳半球の手指の運動野支配領域の萎縮は阻止できないことが明らかとされています
脳梗塞発症から2-3週間以内が、運動野を含めた随意運動出力系の可塑的再組織化が引き出せる期間とされています
そのため発症から2-3週以内が随意運動向上に重要な時間的枠組み(=critical time window)が、重要とされています
1-2.運動麻痺回復ステージ理論
"運動麻痺の回復は6ヶ月かけて回復し、それ以降は回復しない"
私が学生の頃は当たり前の知識として考えられていました
脳卒中リハの算定上限が180日ということも影響しているのかもしれません
"発症から1ヶ月がグンと回復して、2-3ヶ月はなだらかな回復、3-6ヶ月はわずかな回復"
これもなんとなく学生内の常識としてあったように記憶しています
これは急性期、亜急性期、回復期の区分けに影響されているのかもしれません
そんな中、紹介する運動麻痺回復ステージ理論は発症から6ヶ月間の脳内の回復戦略を知ることができます
それを元に脳内回復状況を予測しながら、適切なリハビリテーションを選択できると思います
このステージ理論は3つのステージに別れます(文字色と線色が対応)
1st stage
残存する皮質脊髄路を促進する時期
急性期から急激に減衰し、3ヶ月まで
2nd stage
皮質間のネットワークの興奮性が高まる時期
3ヶ月をピークに6ヶ月まで
3nd stage
シナプス伝導が効率化される時期
文献1)より一部改変
1st stageは脳出血後の血腫の吸収や脳浮腫の軽減、ペナンブラ領域の回復などの時期といえます
つまりより病巣部分、ダメージを負った神経路にアプローチしていくことが重要です
しかしながら脳卒中後は運動麻痺だけでなく、意識障害や注意障害など全般的に脳機能が低下していることがあります
この時に重箱の隅をつつくようなアプローチは効果を示さないばかりか、損傷部への血流のオーバーフローを要求してしまうため逆効果と考えます
2nd stageは皮質間のネットワークが構築される時期です
すなわち1st stageのような損傷部の直接的な回復ではなく、他の皮質(時には反対側大脳皮質)からのネットワーク形成です
動かなくなった麻痺肢を動かすために、脳内では複数の運動関連領域に興奮性の増加が認められます(例;左麻痺なら左の補足運動野や運動前野など)
麻痺と同側の小脳や頭頂葉など感覚領域も興奮性が増大するとされています
損傷部が回復していけば、これらの代償的な興奮性の増大は減少・消失していくとされています
一方適切に回復しなければ代償的な興奮性が増大したまま維持期に入ることなります
左麻痺を例にすると、麻痺肢を動かす際に左大脳皮質領域を興奮させます
本来、左半球の運動関連領域は右半身を動かすわけですから、右半身(非麻痺側)を動かす際も左半球の運動関連領域に興奮性が増大します
つまり
非麻痺側を動かすと、意図がなくとも麻痺側も動いてしまう
という状態、すなわち痙縮につながると考えられます
非麻痺側上下肢を利用して、手すりを引っ張りながら起立すると麻痺側上肢は強力に屈曲する、ウェルニッケ・マン肢位が増強するといった現象が起こると考えられます
1st stageから2nd stageにかけては
①難しすぎる課題による代償的かつ過剰な大脳皮質の興奮性の増加
②非麻痺側の使用を強化(麻痺側の不使用の学習)
に陥らないよう精巧なプログラムが求められます
3rd stageでは1st,2nd stageで学習された脳内ネットワーク・システムがより効率化されていく時期です
私見ですが効率化とは
神経伝導速度が上昇すなわち動きの速度の向上
動員される運動単位の増加すなわち動きの強さの増強
と考えます
特に動きの速さの向上の究極は反射とするならば、反射的に動けるすなわち自動化された動きへと移行されると考えられます
それがたとえ悪い運動パターンであったとしても
このステージ理論は急性期・回復期・生活期の分類と重なります
3つの時期に分類することで専門性の向上が図れる利点があります
しかし、裏を返せば他の時期についてはよく知らない、各時期のセラピストが線ではなく点での介入になる可能性があります
特に急性期では早期離床の名のもとに、非麻痺側を過剰に使用した立位や歩行練習や麻痺肢運動に対して脳内に過剰努力を強いる運動療法などが行われるケースがあります
もちろん意識していても非麻痺側の過剰努力が生じてしまう場面や痙縮が出現してしまうことあります(私が未熟ゆえでしょうが)
急性期から良好な経過を辿る症例も2次的な阻害因子に悩まされる症例も、どちらにおいても運動麻痺回復の流れを考慮していくことで、適切なプログラム選択の助けになると考えます
次は痙縮やワーラー変性などについて考えていきます